分離発注(CM方式)

・施主支給のポイント・その1 ・施主支給のポイント-その2 ・施主支給のポイント-その3 ・分離発注で家をつくる理由 ・自己資金と住宅ローンについて
施主支給のポイント・その1

施主が自ら照明器具や建材などを現場に支給するのが「施主支給」です。メリットはコストダウンやこだわりのある建材を取り付けてもらえることでしょう。一方でデメリットもありますので、コラムでは注意すべきポイントを3回に分けてお知らせします。

まず施主支給でのトラブルについて。

施主支給で起こりうるトラブルとすれば、経験上次の4点が考えられます。

 

(1) 支給品取付け前の不具合

この場合は自己責任で購入先と交渉する必要があります。元々不良品であるのか配送途中に不具合が生じたのかを突き止めなければなりません。

梱包はなるべく早めに外して、品物を確認するようにしましょう。

これから取付けよう、としたときに判明した場合は困った事になりますので、

それなりの準備が必要です。

 

(2) 取り付け工事後、支給品の傷など

この場合誰が傷をつけたのかを解明しなければなりませんが、多くの場合は不可能です。

よほどのことがない限り「私がやりました」と名乗り出る事は少ないからです。

取付けを受け持つ業者はこのことを理解していますので、

取り付け費以外に管理費を見積りに計上することになります。

せっかくコストダウンの為に施主支給しても意味が無くなることもあるのです。

 

(3) 取付工事後、支給品以外の箇所で傷が見つかった場合

全体の工事を受け持つ業者が支給品も取り付ける場合はその業者の責任となりますが、施主支給のためだけに別の業者を施主が手配した場合、話がややこしくなります。

支給品以外の箇所の傷について責任のなすりつけ合いとなる可能性がありますので、このリスクも想定しておく必要があります。

 

(4) 完成後の不具合

不具合の原因が取付工事にあるのか、支給品そのものにあるのかによって対応が違います。

前者の場合は取り付けた業者の責任、後者の場合はメーカー責任ですので

保証範囲内で対応してもらうことになります。

問題はどちらに原因があるのかを誰が見極め指示を出すのか、ということです。

それには知識と経験が必要になるでしょう。

施主支給のポイント-その2

納期についてお知らせします。

支給品は工事の進み具合にあわせてタイミング良く現場に搬入してもらう必要がありますが、早すぎても工事の邪魔になったり、傷や紛失のリスクがあります。逆に、遅くなると工事が進まず現場に迷惑を掛ける事にもなります。
持ち運び出来る小さな物は自分で持参するのが確実ですが、大きな物や重い物は注意が必要です。

商品によっては発注時に在庫が無くなっている場合もあります。メーカーは多くの在庫を持たない方式となっていますので在庫品にも限りがあります。在庫切れの時に慌てないようあらかじめ品物を押さえておくか手元に確保しておく必要があります。

時期として注意したいのは、1月から3月。この期間は年度末のため建築工事が集中して品薄となる可能性が高いばかりでなく、商品の中にはモデルチェンジするものがあるので気を付けてください。

これまで苦労してきた商品としては、照明器具、住宅用火災警報器などです。また低層の賃貸マンションでは避難ロープ(認定品)の在庫が無く、苦労したこともありました。(このときはインターネットを駆使して全国から単品を集めた記憶があります)

届けてもらう時間帯にも注意が必要です。
商品は宅配便かメーカー専用の便で送られますが、時間指定が出来ない場合がほとんどです。そのため、何時到着するかわからない!ということがないように前日に納品してもらう様にしましょう。

可能であれば、あらかじめ工務店などに保管してもらい、現場に都合良く搬入してもらうのが一番良いようです。その場合工務店に管理費としての費用を計上してもらうとスムーズに事が運ぶでしょう。

施主支給のポイント-その3

取り付け工事について。

施主支給品を取り付けるのは現場の施工業者の場合が多いと思われますが、注意すべきポイントについてお話しします。

取り付ける位置が決まれば、取り付けるタイミングと下地の有無についても打ち合わせしておきましょう。業者はプロなので取付工事自体は問題ないのですが、具体的にどのような物なのか情報が必要です。

それによってどの程度の下地が必要なのか、仕上げ工事の前か後か等、十分情報提供しておきましょう。例えば照明器具の場合、実物またはカタログコピーや図面(承認図と呼ばれるメーカー詳細図)を準備しておくと良いでしょう。別に必要な部品など、適切なアドバイスがもらえると思います。

それでも部品を拾い出すのに専門知識や経験が必要となる場合もあります。可能であれば、それらの部品は施主支給せず施工業者さんに取り寄せをお願いした方が良いでしょう。

必要な部品が取り付け日に揃わない場合、思わぬ出費が!というリスクもあるのです。

 

それでも何らかのトラブルがあった場合・・・

プロなら教えてくれれば良いのに!と思ってはいけません。

施主支給はあくまで自己責任であることをお忘れ無く。

分離発注で家をつくる理由

分離発注のメリットを出すには

工務店やハウスメーカーに一括で発注する方法を採らず、いくつかに分けて発注すれば分離発注と言えます。例えばキッチンを知り合いの業者さんに発注する様なことも分離発注の範囲に入ります。分離発注するとその分コストダウンは可能ですが、リスクがあることを理解しておく必要があります。

キッチンの場合、手配と現場の準備を誰が行い、工事の上でトラブルが生まれた場合誰が責任を取るのか、を考えるとそれなりのノウハウが必要となります。このことからコストダウンと言うほどのメリットはありません。やはりなるべく多く分離して発注するところにメリットがあると言えます。

 

分離発注以前の状況

私が事務所勤めをしていた頃から独立してしばらくの間までは、分離発注方式を採っていませんでした。施主との打ち合わせと平行して設計を進めてゆく中で、目安にしていたのは坪単価です。坪○○万円 X 床面積 = 工事金額 という荒っぽい計算のまま進めてゆきました。施主と夢を語り合い、形を作ってゆく作業は設計者の醍醐味でもあるのですが、実施設計が終わり見積りを取ってみるとほとんどの場合が予算オーバーです。しかも20~30%超えはいつものことで、何度も憂鬱な気分になったものです。

 

予算に合わせるには

ここから知恵を絞って何とかコストダウンしてゆくのですが、実際15%を超えた予算の壁を越えるのは至難の業です。仕様を随分変えなければならず、場合により設計変更も余儀なくされ、さらに予定金額で工事を請けてもらえる施工業者を探す始末でした。もちろん業者が見つかるまで相当の日数がかかり、見つかっても腕の良い業者とは限りません。最後は設計監理料だけでなく工事費も値切って何とかまとめていましたが、施主にも不安を与え、同時に無駄な時間を過ごすことになりました。建築設計というサービス業としては決して褒められたものではありません。

 

分離発注にはリスクが付きもの

何とか合理的にコストを調整する方法はないものか、と考えて少しだけ分離発注をすることもありましたが余り積極的には出来ません。なぜならトラブルが起こった時の責任の所在と現場に関わる難しさ、という大きな問題があるからです。分離をすればするほどコストダウンが可能ですが、その分リスクが反比例して増えてゆくのです。

 

流行らない理由

世の中の設計事務所はこのことが良くわかっているので実践しているところは少ないと思います。また実践していても設計事務所が半ば請負業者の立場にいるのではないでしょうか。現場に関わることはノウハウでカバー出来ても、トラブルに対応する補償がなくては成り立たないのです。

 

リスクにはこの方法で対応

実はこの補償制度が確立された方式があるのです。株式会社イエヒトが大手損保会社と確立した「建物登録制度」があります。これはイエヒトが運営するオープンネット会員が利用できるようになっています。私の事務所も15年以上前より会員となり分離発注を実践して来ました。これまで30棟近くの実績があります。

 

建物登録制度という選択

なぜ安心して分離発注を実践することが出来るのでしょうか。建物登録制度は3つの特徴があります。先ず、工事中のトラブルは保険で対応できること(保険制度)。次に設計事務所が業務を続けられなくなったときの引き継ぎ補償があること(引継補償制度)。最後に工事完成後10年目までの対応(検査保証制度)があることです。詳しいことは別のコラムでお知らせしますが、この仕組みが確立されているので私たち設計事務所も分離発注が実践可能で、施主も相応のメリットがあるのです。

 

 

自己資金と住宅ローンについて

分離発注は金融機関融資係がその仕組みを理解している場合は良いのですが、そうでないと、機関内で前例を調べてもらうか一通り説明する必要があります。

この発注方式が理由で断られた経験はありませんが、融資担当者にとっては、ハウスメーカーや工務店にくらべて面倒だと思います。一般的には、契約書が揃い総額が明らかであれば大丈夫でしょう。(金融機関によっては窓口でNGであることもありますので、確認を)

 

土地と建物でローンを組む場合は、土地は100%融資対象にして、建物の方になるべく自己資金を回してください。分離発注の場合は着工後二ヶ月目より毎月の支払いが発生しますので、建物側の融資金額が工事費用と設計監理料の半分近くあれば資金ショートになりません。(解体がある場合は、解体の支払いが着工前となります)

 

それが難しい場合は、別途つなぎ融資を検討します。

フラット35をご利用の場合は、三井住友海上火災が窓口をお勧めしています。分離発注に対応して手続きがスムーズで、つなぎ融資の場合の仕組みも整っているからです。